”井戸底の泥を浚えば声が止む?”
当院には冷えや、腹痛、腰痛で来てくれている方。
他院の精神科には統合失調症でずっとかかっている。
この病気は長く20年近くまえからあるという。
薬も向精神薬を数種類のんでいる。
それでも、幻聴は時々起こる。
幻聴があると、自分を誘ってきたり、非難したり、陰口を囁いたりするので
イライラする。
今回の外来で言うには、男女2人の声で「助けてくれ」と最近聞こえるらしい。
あまり気持ちの良い声ではない。
身体的には、腹の調子は比較的いい。腰痛もマシになっている。
冷えも漢方でよくなっている。
流石に幻聴に対しては漢方は効かないようだ。
横になってもらって診察する。
足は、胃経の緊張はあるが、冷えはそれほど認めない。
腹は膨満気味。どうしてもお菓子とかを食べてしまうという。
仕事のストレスがあり、食べることでストレスを解消しているという。
肝臓が腫れているので脂肪肝をうたがう。
腸もそれほど良くない。ときどき下痢をする。
全身の気の流れを見ると、頭がおもい。
それも左の脳の前のあたりがおもたい。
逆に左の後ろが機能低下しているように感じる。
たぶん、脳の部分部分のバランスがわるいのも幻聴の原因になるのだろう。
起きてもらって、座ってもらいPTM易をしてみた。
この方には幻聴が特徴的なので「幻聴に対応する卦は何か?」と聞いてみた。
というのも、どの卦が幻聴に対応するのかわからないと、幻聴の原因や対処法を聞いても解釈できない恐れがあるからだ。
一般的な症状、病態なら、数をこなしているうちにわかってくる。
でも、幻聴のある患者さんはあまり来ない。
PTM易では「沢天夬6爻」と「水風井」が反応した。
「沢天夬」は、決断、決壊、決心、などを意味する。でもそれと幻聴が関係するとは思えない。では、何か?
この卦の形をみると、上爻(6爻)のみが陰で他はすべて陽だ。
6爻のみが頂上で目立っている。6爻は身体では頭を表すのでその部位の問題を示唆する。
おまけに、陽が分裂して陰になっている。
ここで「統合失調症」は、以前は「分裂病」と呼ばれていたのを思い出した。
この卦はこの方の脳の病態全体を意味するのだろう。
つまり「統合失調症」が基本にあることを意味している。
次に「水風井」は何か?これはしばらく考える必要があった。
「水風井」は、井戸のように皆を養う、汲み出す、湧き出る、清冽な水、などの意味がある。
聞いたのは病態なので、反対の意味を考えることが必要だ。
上の反対は、養わない、汲み出さない、湧き出ない、汚い水、となる。
ここから出るイメージは、”底に泥が溜まり、水は濁って誰も飲んでくれない井戸”の像だ。
清冽な水にするためには底を浚えなければならない。
すると、”幻聴を作る脳”とは易的には、”底が浚えられてなくて濁った水が湧き出すような井戸”に例えられるだろう。
ここでは”幻聴=湧き出る濁った水”となる。
ここから、治療法も示唆せれる。
井戸の底に溜まった泥をかき出すように、脳の底に溜まった毒素をかき出すような薬が必要になるだろう。
この方はすでに精神科で3種類もの薬を飲んでいる。
この内どれが効いているのか?
最近幻聴が多いことから、どれも効いていないのかもしれない?
これもPTMを使えばある程度わかるだろうが、他科領域をあまりにも侵害することになる。
長年かかっている病院とその治療に患者さんは満足している。
患者さんのメリットを考えるとそこに口出しできない。
よって、精神科の薬についてはしばらく様子を見ることにした。
当院では、今まで通り体の症状をメインにみて、今回はPTMで「抑肝散加陳皮半夏」を選んで、終了とした。
コメント
●「水風井」は上に書いたように、人を養う、汲み出す、湧き出る、清冽な水、などの意味がある。わかりにくい卦だ。臨床でもあまりでない。
●「沢天夬」は以前は、”決裂、決断”という意味でアップしたことがある。この卦は一陰が五陽の上にのっているので、見るからに頭の病気を表している。上に書いたように、陽が別れて(分裂して)陰になっているので、この症例では「分裂病(統合失調症)」を指し示していると見て取れた。
●いつもは、病態の原因を易に聞くことがおおいのだが。今回はわかっている病態そのものを易に聞いてみた。このようにすることにより、”様々な病態⇔様々な卦の組み合わせ”がわかってくるだろう。このような知識が増えれば増えるほど、易の病気に対する診断能力がアップすることが期待される。