「山地剥」症例1:40代女性

”足元弱くてコケるが心配”

 本日が初診の方。
口コミで来られた。
首の後ろが痛い、首が回らない、肩こりがあるのが主訴。
肩こりは慢性的だが、首のこりは最近酷くなったという。
さらに40代後半で月経が乱れ始めていて、ホットフラッシュもあるという。
内科的な問題はない。婦人科もかかっていない。
既往歴もとくに問題なし。

 横になってもらい診察にかかった。
足はむくみがあり、瘀血あり、肝経が実で突っ張っている。
腹は、右の方に胸脇苦満が広い範囲である。
腹はやや膨満していて、食べすぎ傾向にある。
喉のつまり感がある。頭が重たい。
全体の気のながれをみると、左の肩の後ろに重たい気の塊を感じる。
輪郭がわりとはっきりしているので、他人の念の疑いが濃厚だ。
他人のいい思いは”暖かさ、心地よさ”として入る。
反対に、悪意は”重たさ、痛さ”として感じる。
「だれか、嫌な人がいませんか?」と、聞いてみた。
  「います。。。」
「誰ですか?」
  「義理の母です。」と、即答された。
嫁と姑の確執か、、、よくある話だが、御本人はしんどいだろう。
話を聞くと、何かにつけ、箸の上げ下ろしまで嫌味を言われるようだ。
同居していて、ご主人は母側につくので、それもストレスの原因だ。
困ったことだが、何か方法はあるのだろうか?

 そこで起きてもらって、PTM易で「何が問題か?」と、改めて問題点を聞いてみた。
すると「風火家人」、「山地剥」、「天火同人」が反応した。
「風火家人」は家の人のことなので、単純に義理の母でいいかもしれない。
 それでは「山地剥」は何か?この卦は”剥離、剥奪、剥落”などを意味する。
なにかが崩れ落ちる象徴だ。義理の母は元気で倒れる心配はないらしい。
患者さんも体力がありそうだ。
家庭の崩壊は?と聞いても、その危険も当面ないという。
それでは、何が「剥」なのだろうか?
「何か、剥離するとか、剥がれるとか、倒れるとか、ないですか?」
  「そういえば、先週、中学生の息子が倒れて、救急車で運ばれました。」
「なんで、倒れたの?」
  「意識がなくなって、病院ではテンカンの疑いと言われました。」
「テンカン?倒れたのは初めて?」
  「はい、初めて。顔が真っ白になっていて危なかった。初回なので薬はでていない。それでずっと注意しないといけないので、気が張っている。」
そうすれば「山地剥」は息子さんが倒れたことを意味すのだろう。
すると、「風火家人」は家族である息子のことも示していると解釈できる。
 もう一つの「天火同人」は何だろうか?この卦は”同僚、知り合い”などを意味するので、
同僚とか友達で問題がある人はいませんか?と聞いてみた。
すると、働いていないし、そのような人はいないという。
さらに、話を聞いていくと、義理の母はこの方のことをまるで”他人”のように扱うらしい。
すると「天火同人」は母にとってこの患者さんのことかもしれない。
だから、患者さんは家族(=「風火家人」)でありながら他人(=「天火同人」)のように扱われることにストレスを感じているようだった。
今回は、3つの卦で、2つの問題点が示されたことになる。
どちらもこの患者さんにとって大きな問題点だった。

 漢方は、イライラ、ストレスに対して「抑肝散加陳皮半夏」を、考え過ぎ、心配しすぎにたいして「酸棗仁湯」をPTMで選んで、終了とした。

コメント

●「山地剥」は、剥離、剥奪、剥落、転倒、崩壊、などの危機的状況を意味することが多い。以前の外来では「ジェットコースターで宙返りしてひっくり返ってから」調子がわるくなった人に出たことがある。そんなに頻繁には出ない卦だ。よく似た卦に「沢天夬」がある。この卦は「山地剥」の陰陽を反転させた裏の卦にあたる。両者とも危機的状況を意味する。「山地剥」は下にある5つの陰が潰れて、上爻(6爻)の一陽が崩れるイメージだ。一方、「沢天夬」は、上爻(6爻)の一陰を下の5つの陽が押し退けようとしているので、外部からの力で崩壊するようなイメージだ。「沢天夬」については、別に書きます。

●「風火家人」と「天火同人」はどちらも”人”を意味するが、守備範囲が違う。でも、以前書いたように、かわいがっているペットは「動物」でありながら「風火家人」の意味を持つように、今回もこの患者さんは「家族」でありながら、義理の母にすれば「天火同人」の意味を持つというようなことがある。易は象徴なので、いろいろな立場から様々な解釈の可能性を試しながら読んで行くことが必要だ。

●漢方の「酸棗仁湯」は雑念が湧いてきて、頭が静まらない人に使うことが多い。