”「分かっちゃいない」が一番困る”
腰痛、腹痛、下痢、倦怠感、肩こりがあると言って来院された方。
当院のメインは頭痛と漢方で、腰痛、腹痛はメインではないので、どなたからかの口コミのようだった。
問診できくと、いろいろ複雑な経過で病態がややこしい。愁訴も多い。
簡単に書くと、3年前から下腹の痛みあり、同時期に腰痛も出てきたという。整形外科に行ったがレントゲン、MRIで異常なし。
下痢もしょっちゅうあるので、消化器内科に行ったが良くならなかった。
胃カメラ、大腸ファイバーを受けたが異常なし。
薬もそれほど効かなかったらしい。
婦人科に行くと、巨大な子宮筋腫が見つかったので、2年前に菌腫の摘出術を受けた。それでも下腹の痛みは良くならずに、むしろ悪化したという。
その頃から、京都の漢方薬局にかかり、煎じ薬を処方され下痢の症状は改善したという。その後、その薬局を信頼してずっと通っておられる。
処方は中医学の煎じ薬でやっている。
でも、腹と腰の痛みは毎日あり、辛いので、痛みが減るかもしれないと期待して、1年前に以前からあった痔の手術をうけた。それでも痛みは良くならない。
そのころ、内科で胸のレントゲンで間質性肺炎が見つかった。
しかし、呼吸困難などの症状はなく、まだ初期の段階のようだ。
同時に高血圧(160/90程度)も指摘され、降圧剤を勧められたが、西洋薬に疑いがあり飲まなかった。中医学には絶大な信頼をおいて、煎じ薬を続けている。
御本人は東洋医学に興味があるようで、中医学の学校に通っている。しかし腰痛、腹痛のために学校も1月前から休学しているという。
問診から、なにか違和感を感じながら、診察に移った。
横になってもらって、足から診ていった。
足にはむくみがあり、脾経のラインに瘀血がある。
腹も、水がおおく、下腹部に瘀血が著明。
胃のあたりの上で皮下脂肪が結構厚く、甘いものを沢山たべているとわかる。腹を診ていると、仙骨の2番あたりが硬いことがわかった。
(なれてくると、腹の診察で裏の腰の状態が推定できるようになる。)
御本人は仙腸関節が悪いと思いこんでいる。
これも中医にいわれたのかも、しれないが。。。
首は左の流れがわるい。
診察中に腰の気の流れが良くなったので、これなら漢方で良くなるだろうと期待して、次の漢方の選択に移った。
椅子に座ってもらって、さて、PTMで漢方を選んで行こうとした時に、いつものように「今から漢方を処方するけど、2週間は煎じ薬を止めてくださいね」と言ったら、
「それはできない」と拒否された。
「エーぇ、それは困るな~」。。。。
通常、他院で漢方を出してウチでも出したときに、一緒に飲むとそれぞれの薬が相互作用して効かなくなる。だから、ウチの漢方を飲む間(2週間)は他院の漢方は止めてもらっている。
どちらが効くかは、患者さんが判断すればいい。患者が選んで良い方に行けばいいと思っている。
ところが、この患者さんはそれ以前に、剪じをやめれないと言う。
それではやりようがなく、仕方ないので
「また考えてみてね」と言って、今回は帰ってもらうことにした。
同時に、中医学については忠告しても無駄なので、間質性肺炎と高血圧は内科できっちり診てもらうようにとアドバイスして、終わりとした。
この患者さんはPTMで漢方を選んだわけではないし、PTM易をやったわけでもない。
でも、なんだかすっきりしないので、患者さんが診察室を出た後に、自分の指でPTM易をやってみた。問は「この患者さんの問題点は?」とした。
すると、「山水蒙初交(1爻)」が反応。「蒙」は、無知蒙昧、理解が悪い、知恵がない、幼稚などを意味する。
なるほど、この人は”わかってないのだ”と理解できた。
わかってないのなら、仕方ない、わかるまでしばらく様子を見るしかないだろうと結論した。
コメント
●「山水蒙」は、上に書いたように、無知蒙昧、理解が鈍い、頭が悪い、幼い、などを意味する。
臨床では「子どもの問題」、「わかってない状況」などの時に出ることが多い。
この患者さんは、ご自身の病状が実は重いことを全くわかっていなかった。間質性肺炎は小柴胡湯などの漢方でも起こりうるし、場合によっては命取りになる。さらに高血圧も30代にしては異常に高い。漢方薬局に頼るのは危険な状況にあった。私のアドバイスにしたがって内科にかかってくれることを祈った。
しかし、「山水蒙」はすべて悪いのではなく、5爻の爻辞に「童蒙。吉。」とあるように、「子供が素直に先生に従って学ぶ」ときには吉となる。でも、この患者さんは初交なので、「蒙」に落ち込んでいた。だから言っても聞く耳をもたなかったのだろう。
●今回は、患者さんの指でPTM易をしたのではなく、私自身の指で患者さんのことを見た。このようなことはあまりしない。でも、PTMで漢方を遠隔で選ぶときには、目の前に患者さんがいないので、同様なことはおこなっている。今回はそれの応用だ。
●仏教の三毒に「貪瞋痴」というのがある。「貪」は貪欲、「瞋」は怒り、「痴」は無知を意味する。この3つは、外来で患者さんの問題にいつも関連してでてくる。貪はお金の問題、食べすぎなどで、瞋は怒りによるストレスなどで、いつもの外来ででてくる常連だ。「痴」はそれほど表立って臨床上問題とならないようにみえるが、実は最も手強くて奥深い。貪と瞋は、忠告すればまだ聞いてくれて行動を改めてくれる可能性があるが、「痴(=蒙)」ではその可能性が低い。だから「痴」が最も手強い毒になりうる。