「兌為沢」症例1:60代女性

”口八丁は太るばかり”

1週間前から右の肩が痛いと言って、半年ぶりに来られた。
整骨院に行っているが、整形外科には行っていない。
肩の痛みは夜にひどく、同時に足の裏が火照って寝にくい。
他院内科で高血圧、高脂血症の薬をもらって飲んでいる。
よく喋る方で、その内科の先生の噂話も教えてくれた。
さらに、自分の周りの友達の病気のことまで話しだした。
聞いていると、どんどん話が広がっていくので、横になって診察にかかる。

足は太って瘀血がありそうだ。胃経が突っ張っているので食べすぎがある。
体重がある割には膝はまだOKだ。
腹は、明らかに膨満している。
太鼓腹のようになって胸との境界がわからない。
カルテによると、半年前は体重が70kgだったとあるが
今回はさらに増えているように見える。
そこで「体重は何キロになりました?」と聞くと。
この3月で太って75kgになったと答える。
身長は見たところ150cm程度のようだ。
そうするとBMIが33と高度肥満。
さらに、診ていくと、心臓が苦しい。
心臓は握りこぶし大で大きくならないのに、脂肪がついて体重だけ重くなっている。
いつも患者さんに言うことをこの患者さんにも言った。
「軽自動車のエンジンに荷物をどんどん積んでエンジンが悲鳴をあげていますよ」、と。
心臓は軽度、心不全気味のように思われた。
確か、以前も心臓が苦しい症状があって、ニトロ製剤をつかったこともあったことを思い出す。

起きてもらって、座ってもらいPTM易で「なにが問題か?」を問うてみた。
すると、「水天需」と「兌為沢」が反応した。
「兌為沢」は、兌の重卦で、”口が2つ重なっているとみる”。
つまり、口が2つのごとく”よく喋ってよく食べる”人なのだろう。
「水天需」は、”待つこと”を多くは意味するが、”飲食や饗応”のことも意味する。
「兌」は楽しみ喜びも意味するので、”みんなと歓談しながら食べることを楽しみ喜ぶ”人だとわかる。
この方にとって、食べること、喋ることが度を過ぎているのが問題のようだ。需は潤いも意味するので水分のとりすぎもあるかもしれない。

このことを患者さんに指摘したが、またまた喋って話をそらされてしまった。
どれほどまで直してくれるか心もとないが、仕方ないので、漢方は、水を尿に出して心不全に効果がある「八味地黄丸」と、手足の火照りにきく「三物黄芩湯」
をPTMで選んで処方した。
主訴である肩の痛みに対しては、知り合いの脊椎矯正師の先生を紹介して、終了とした。

コメント

●「兌為沢」は兌の重卦で兌の意味が強調される。すなわち、喜び、楽しみ、悦楽、口に関係すること、食べること、喋ること、笑うことなどである。多くは良い意味であるが、度をすぎると、怠惰になったり、享楽・逸楽になったり、するので注意が必要だ。

●「水天需」は多くは”待つこと”を意味する。臨床では、待ちすぎて「宿題を遅らせる」とかの悪い意味で出たことがある。またこの卦は”飲食や饗応”を意味するので「飲食業」という意味で出たことがある。それほど頻回には出ない卦の一つだ。

●私の外来では八味地黄丸をよく使う。この方のように軽度の心不全にも効果がある。