どうして「クリニカル易占」なのか
私は「易」を臨床で使うことを行っています。「クリニカル易占」と名付けました。
昔から病気を易で占うことはよくありました。加藤大岳先生の『易学病占』という昭和初期に書かれた名著があるぐらいです。昔は、病気の原因が同定されていなくて、原因が“物の怪”や”邪気“や”湿気“や”遺毒“などに帰されていたわけですから仕方のないことです。昔の医者は漢文が読める知識人だったので、儒教の根本経典としての易の素養もありました。病気の原因や治療法や予後も易で見立てることもあったわけです。
しかし、現代では医学が発達しているので、易で病気の診断や経過や予後を占うよりも、現代医学の検査で調べたほうが明らかに正しい結果が出ます。
数滴の血液で癌の診断ができたり、PETで数ミリの早期癌が発見されたり、遺伝子検査では将来おこりうる病気もわかります。人知が及ばないとされる人間の寿命でさえ、「この癌はこういうステージだからあと何ヶ月しか持たないだろう」、という現代学的診断は(例外があるとしても)ほぼ当たります。
そのような状況で、いまさら臨床に易を使うことに意味があるのか?という疑問がおこります。でも、このブログで挙げた症例でみるように、病気の奥にあるもの、当人の患者さんでさえ意識していない原因や、要因などが易をすることにより、明らかになってきます。さらには、そこから治療法もわかったりします。現代医学の検査では、患者さんの心理状態、ストレスの原因、家族関係、人間関係、家庭や仕事場での状態はわかりません。数値化や画像化できないこれらの隠れた要因(暗在系と言っていいかもしれません)が病気の原因としてかなりのウエイトを占めているのです。
クリニカル易占の方法
具体的にクリニカル易占の方法について述べてみます。
臨床の場ではさすがに筮竹を使った易はできない。ただでさえ怪しいと思われているのに、筮竹まで操りだすと患者さんは来なくなってしまう。
といって、サイコロもすこし変。当てずっぽうで、信頼性がないように思われる。
患者さんを前にして、どのような方法が最も臨床に適しているのか?
検討した結果、わたしが現実に行っている方法を以下に述べていきます。
① 六四卦をリストしたパネルを使う
64卦を適当な本からコピーして、紙に貼り付けて、そのうえからラミネートしてパネルを作ります。
そして、患者さんの指で各卦を1番の乾為天から64番の火水未済までたどっていって、反応する卦を見つけていきます。PTMで漢方をえらぶのと全く同じ方法です(図参照)。
だから「PTM易」、「PTM易占」などと言っています。
PTM易をするときも、占的が大事になります。
なにを聞くか、なにが知りたいかを、はっきり心のなかで宣言して行います。
よく使うのは、「この患者さんの身体の奥の問題点は?」とか「この方の気の流れがわるい原因は?」などという問いです。
殆どの場合で数個の卦が反応します。
この点が通常のやりかたの易占とは異なります。
筮竹やサイコロを使った易占では1つの問に1つの卦しかでてきません。
だから、「変爻」などを使って卦を変化させて解釈に幅を持たすことが必要となります。
PTM易では複数の卦がでるので、その卦の組み合わせで判断することが主になります。
その意味で、卦の変化をあまりみないので名人芸は必要ではありません。
もっと具体的にいうと、複数の卦のうち、反応が一番強い卦が問に対するいちばん重要な答えを表します。つぎに、この卦を一番下の初爻から一番上の上爻まで、指で触ってPTMの要領で反応する爻を探っていきます。通常の易占の「変爻」を見つけることに対応します。このあたりの判断も、通常の易占のやり方と同様です。
内卦に反応があれば自分の問題、外卦に反応があれば相手の問題と見ます。
初爻が反応すれば、自分の部下かもしれませんし、身体だと足が問題かもしれません。
上爻が反応すればかなり上の位の人たとえば会長かもしれませんし、身体だと頭に対応します。場合によっては、そのようにしてみつけた変爻の爻辞を本でチェックして参考にします。
さらに、反応する卦が複数あるときは、それらの卦の組み合わせで解釈します。これにはコツとナレがひつようですが、卦の知識と一般常識でほとんどが解釈可能です。各卦の【症例】に沢山の例を載せているのでそれを参照していただければよいでしょう。
すこし例を挙げれば、「風火家人」+「雷沢帰妹」で配偶者を示すことが多いです。
「天火同人」+「地水師」では家族以外の誰かと喧嘩していることが多いです。
「山沢損」+「沢水困」では損害を被り困っていると解釈できます。
面白いのは、PTM易をやって患者さんの問題に対応する卦がわかると、同時に患者さんの気のながれが改善することが多いです。卦を立てると同時に気が流れ始める。患者さんもその変化を感じることができます。PTMがいいのは術者と同時に患者さんも同じ感覚を共有することですが、それがPTM易でも同様に発生します。
気が流れ始めると、頭がスッキリして今まで漠然としていた漢方がPTMで反応しだすことも多いです。そして適切な処方を選ぶことができるようになります。
② 算木で卦を組み立てる
易では卦を形で表すのに伝統的に「算木」というものを使います。
長方形の棒の真ん中の2面を削ったものが陰を表し、削らない2面が陽を表します。だから1つの棒を回転させると陰と陽の両方を表示できます。下の左図は算木の例です。算木を6本下から順に並べて卦を組み立てることができます。右図は算木を積んで地天泰 を作ってみました。各爻の位置の算木をくるくると回転させると陰陽を変換できるので簡単に之卦とかも表示できて便利です。
さて、通常の筮竹を使った「略筮法」では最初の操作で内卦を出して、3つの算木をつかって内卦を形成します。例えば「乾」がでれば陽の算木を3つ重ねて作ります。次の筮操作で外卦を出します。例えば「坤」がでれば陰の算木を内卦の上に3つ重ねます。これで「地天泰」ができました。そして最後の筮操作で変爻を出します。
私のPTM易では、算木を初爻から上爻に向かって順番に爻を組み立てていきます。陰陽の判断は気の流れで行います。具体的には、まず「何を聞きたいか」という占的をしっかり意識します。次に1本の算木を持って、回転させて陰、陽をみます。そして気の流れがよいほうを採って机上に置きます。つぎに2爻も同様に別の算木を1本もって、陰か陽でどちらか気の流れがいい方を選択します。そして最初の初爻の上に置きます。このようにして最後の上爻まで6本の算木で陰陽を選んで積んでいって、卦を作ります。変爻は初爻から上爻まで指で触って気の流れがいい爻を変爻とします。この方法では1つしか卦が出ないので、通常の易占の解釈の仕方と全く同じです。
変爻も参考にしますし、之卦、伏卦、互卦、綜卦、包卦なども参考にします。略筮法と違うのは、爻が複数反応すれば変爻が複数でることです。だから、中筮法に似ているかもしれません。
実際の臨床では小さな「投げ算木」を使っています。
本格的な算木は10cmと大きいので机のうえで操作するのに目立ちます。
投げ算木は、本来6個を投げて1~6爻までの爻をつくるものですが、これは小さいので机の横の方で目立たないように卦を作っていくのにぴったり合っています。
③ 陰陽の記号をPTMで選ぶ
もうひとつの方法は、メモ用紙の上に陰陽の記号を横に並べて書いて、それを上下6段に重ねて書きます。下の図を見てください。そして、一番下の初爻から患者さんの指で触って陰陽の反応の良い方を選んでいきます。PTMの要領です。そして反応の良い方をペンでチェックします。上爻までやって、チェックがついた記号を選んでそのまま並べれば卦を立てることができます。下の例の場合は「火地晋」になります。メモ用紙でできるので簡便です。
④ 頭の中で卦を組み立てる
あとは、算木もメモ用紙もサイコロもない時はどうするかが問題です。
世間ではその時の時間などから卦を割り出す「梅花心易」というのがあります。
一方、私は頭の中のイメージで卦を組み立てています。
やりかたは、まず1番下の初爻から陰と陽の記号を頭の中でイメージして、どちらが気の流れがいいかを判断します。初爻が決まったら、その上にまた陰と陽の記号をイメージしてどちらがいいかを決めます。これを6回繰り返して頭のなかで卦を立てます。この方法は、イメージ操作なので集中力が必要です。判断は陰と陽の記号をイメージでおいたときにどちらが気のながれがいいかで判断します。
この方法は指で触りませんが、それでも良い悪いの気の感覚はわかるのでPTMの一種だと思っています。
この方法のいいのは、日常生活でなにか迷ったときに、すぐに易を頭のなかで実践できることです。思いがけず役に立つことが多いです。