”過保護の猫で心配絶えず”
体調不良があると時々来られる方。
今回も、気分がおちこむ、体が重い、寝れないなどの症状で来られた。
仕事に行くときに体がおもくなり、足が出なくなるという。
もとから鬱傾向があり、現在も他院から抗うつ剤が処方されている。
それで一時的によくなったが、1週間前からまた悪化しているらしい。
そこで、横になってもらって診察した。
顔貌はやや苦悶状で、動作が鈍い。体が重そうにゆっくりと横たわる。
足は、少しむくみ気味で冷えもある。肝経のながれに滞りを感じる。
腹は、ややガスが多く、張っている割には力がない。
臍下不仁はない。
胃の動きは悪い。胸脇苦満はそれほどハッキリしない。
頭に霧がかかっているように感じたので、悪くなった1週間前に何か事件があったかどうか聞いてみた。
すると「かっている猫が調子が悪くて。嘔吐して食べなくなった」と言う。
さらに、昨日獣医に連れて行ったら、ひょっとして悪性の胃の腫瘍かもしれないといわれたと。
猫は今後精密検査を受ける予定のようだ。
それなら、鬱病が悪化した理由がわかる。
漢方で何ができるかわからないが、起きてもらって、座ってもらいPTM易で、問題点を聞いてみた。
すると、「天雷无妄」、「沢水困」、「風沢中孚」が反応した。
「天雷无妄」は自然現象を表すので、動物、植物、鳥などがここに含まれる。この場合は「猫」だろう。
それでは、「沢水困」と「風沢中孚」はなんだろうか?
以前、来たお母さんのことを思い出した。その方は小学校の子供に甘いものをたくさん食べさせ、危険な運動をさせず、肥満とアレルギーを引き起こしていた。その際に、この2つの卦がでたのだが、”過保護”を意味するとその時は解釈した。
つまり「風沢中孚」は”母鳥が卵を温める図”と言われている。母の羽の下に子供がかくまわれている。「沢水困」は”閉じ込める””囲い込む”ことを意味する。だから、この2つの卦から「過保護」と判断した。
そうすると、この患者さんの場合は、「過保護の猫」かもしれない。そこで聞いてみた、
「猫はイエ猫ですか?」
「そうなです、一回も外に出たことがないんです。外は危ないでしょ。」
(それならこの猫はネズミを捕ることはないだろう)
更に聞くと、猫に高価なペットフードを与えているようだし、快適に過ごせるように冷暖房も調節していると言う。
それに、家族のだれよりも猫と話すことが多いという。
(猫が話の内容を理解してるのだろうか?)
などと、聞いていくと、やはり「過保護猫」だろう。
猫の病気で患者さんが落ち込んでいるのが理解できた。でも、過保護をやめさせるわけにいかないし、抗鬱剤はすでに心療内科からでているし、ウチとしてはPTMで漢方を選ぶことにした。患者さんはウチの漢方を信頼してくれている。今回は抑肝散加陳皮半夏と炙甘草湯がPTMで反応したのでこれを処方して終了とした。
コメント
●「風沢中孚」は、今までなかなかわかりにくい卦だった。成書では、誠実、真実、とか書かれているが、実際の臨床ではピンとこなかった。その後、「卵」を食べすぎている人にこの卦が多く出ることがわかった。上に書いたように「孚」の字は”卵を抱いている鳥”の図をイメージさせるからだ。卵が孵っても、羽の下に抱いていると、この例のように「過保護」になる。他に、臨床では「卵子が不良で不妊治療中」とかも出たことがある。
●「沢水困」は困難、困窮、苦境などを意味するが、前に書いたように「囲まれている」、「閉じこめられている」なども示唆する。
今回の猫は、たしかに病気で困窮の状態にあったが、同時に飼い主に囲われてしまって過保護の状態にあった。
●「天雷无妄」は自然現象一般を示して出ることが多い。動物、植物、花、風、太陽、自然の本能、欲望、などなど。これについては、また書きます。