「震為雷」症例1:30代男性

”動かないと冷えちゃうよ”

 当院には、体調維持のために月に1回程度通ってくれている方。
今回は、冬になり手足が冷えて、手の指にシモヤケがおこるといって来られた。
仕事場はお菓子の調理場で足元がひえるという。
当然水も使うので手も冷えるだろう。
冷え以外は、すこし腰痛があるという。
クリスマス前で忙しく、ストレスもあるという。

 横になってもらって、診察に入った。
足は、指から足首がとても冷えている。
足の指にはシモヤケはないが、1月になればできるかもしれない。
太もももすこし痩せ気味。
男性としては筋肉がすくない。
運動が足りてないのか?
腰も、動きがよくない。冷えがある。
腹は、腹直筋がすこし弱く突っ張っている。
胃の動きもそれほど良くない。
手の指にシモヤケが出来ている。
右手首の太淵に接触鍼をあてて全体の気の流れを見てみた。
すると、目がおもい。首も重いのがみてとれる。
ノボセがある。男性にしては冷えノボセがきつい。

 起きてもらって、椅子に座ってもらいPTM易で「何が問題か?」と問うてみた。
すると「巽為風」、「震為雷」、「地天泰」が反応した。
「巽為風」は、忍び込む、入り込むの意味があるので。隙間風などに乗じて冷えが忍び込んだ可能性がある。そこで聞いてみた。
「家とか、職場とか隙間風がないですか?」
  「家は風は入らない。職場は足元に風が入るかもしれない。」
たぶん、足元に冷えが忍び込んだのだろう。
 次の「震為雷」は、振動、動き、騒動、驚き、などを意味する。
すると、この患者さんでは”動きがすくない、運動が少ない”ので冷えがキツイのではないか?
そこで聞いてみた。
「よく動いている?手は動かしていると思うけど、足は動いてないんじゃないですか?」
  「そう、そう、じっとして手を動かしてお菓子を作っている。足は動かさない。」
それでは、足が冷えてくるだろう。足の気のながれ、血液が循環しない。
 最後の、「地天泰」は何か?
この卦は、安泰、泰然、などを意味する。普通はこの卦が出れば、吉の意味がある。
でも、今回は問題を聞いたので、恐らく「泰」の状態からのズレを意味しているのだろう。
特に「泰」は外卦に陰爻3つの「坤(地)」があり、内卦に陽爻3つの「乾(天)」がある。
上にある地の気が下がり、下にある天の気が上り、その2つの気が混じり合う象を示している。
陰陽のバラスが最もいい卦といわれている。
すると、この患者さんではどうか?
足と腰が冷えて上にばかり気が昇っている。上下のバランスが乱れている。
だから、出た卦は「地天泰」からズレていることを言っているのだろう。

 以上のことから、患者さんにはできるだけ足腰を動かすようにアドバイスした。そうすることで下半身に気が回りはじめ、ノボセた気も循環し始めるはずだ。漢方はPTMで腰を温める「八味地黄丸」と「大防風湯」を選んで処方して、今回は終了とした。

コメント

●「震為雷」は「震」が2つ重なるので、「震」の意味が強まる。すなわち、振動、動揺、騒動、動き、活発、にぎやか、などを意味する。この患者さんでは”動き”が少ないと解釈できた。今までの外来では「マンションの隣の部屋が騒々しい」、「太ってきたので運動すべきだ」とかいう意味で出たことがある。

●「巽為風」、「地天泰」については別にアップしているので見てください。

●「八味地黄丸」、「大防風湯」ともに腎虚に使われる方剤だ。「八味地黄丸」は水を抜いて、腰を温め、腎陰をおぎなう。「大防風湯」は、腎を温める上に気血両方ともに補う力がある。