「火雷噬嗑」症例1:60代女性

”歯がなくても大食らい”

今回は、最近下痢をしているといって来られた。

早速、横になってもらって診察する。
腹をさわると、いつものごとく膨満している。
太鼓腹に近い腹。いつも同じなので、またいつもの如く「食べすぎじゃない?」と言う。
患者さんも、「違う」といつもの如く否定される。
食べ過ぎの人ほど、食べ過ぎを指摘されると否定するのはどうしてか?

胃が充満して、肝臓のあたりも腫れている。
たぶん脂肪肝だ。
下腹もはっていて、下痢とは言うが便秘気味だろう。

食べすぎているのは何だろうか?と疑問におもう。
腹を触っていると、フッと「柿」が頭に浮かんだので、
「柿とか果物、おおくない?」と聞く。
今がシーズンなので美味しいらしい。まいにち柿とバナナとナシとリンゴをたべているという。
患者さんは、果物は健康にいいと思っているようだ。
でも、最近の果物は品種改良でとても甘くなっている。
沢山食べると糖分のとりすぎになるのだが、わかっておられない。

起きてもらって、椅子に座りPTM易をする。
本当に「食べ過ぎが問題かどうか?」を易に聞いてみる。
すると、「火雷噬嗑」と「雷天大壮」が反応した。

「雷天大壮」は、食べ過ぎのときによく出る卦だ。
形が「大兌」でなので大きな口の形をしている。
また、「兌」なので「食べるのが楽しい」人のことを意味する。
「大壮」の「大」は「大食らい」の「大」に通じる。

どうして「火雷噬嗑」が出たのだろうか?と思って、患者さんに
「口とか歯か悪くないですか?」と聞くと。
「歯はほとんど抜けて、少ししか残っていない」と言う。
最近は、コロナの影響でマスクをかけているので診察時にはわからない。

なるほど、そうだったのか、
”歯がないのに、たくさん食べて、胃腸に負担をかけて下痢をした”のだろうと理解できた。

いつものように患者さんに食べ過ぎを注意して、今回はPTMで九味檳榔湯が反応したので、これを処方して終了とした。

コメント

●「火雷噬嗑」は、噛む、食べる、口、歯、異物、引っ掛かり、障害物、などを意味する。
以前「人生での障害物(=トラウマ)」や「会社での出る杭」を意味したことがある。

●「雷天大壮」は一般的には、壮大、勇壮、勢い、羽振りがいい、などを意味するが、最初私はこの卦の解釈に困ることがあった。問題があって来ている患者さんで「壮大」とか「勢いがある」とか出るはずがない。ある時から、食べすぎている人に割りと出やすいことに気づいて、「大食らい」の卦でもあることがわかった。

●現実の臨床では、患者さんの食べている物がとても大事になってくる。合っていないものをたべて不調になっていることが多い。その典型は「肉」だが、また後ほどアップします。

●診察中に患者さんが、食べた物、食べたい物がフッと頭に浮かんでくることがある。調子がいい時はかなりの確立で的中する。以前、患者さんが診察室の扉を開けて入ってくるなり、「サンマが食べたくない?」と聞いて、びっくりさせたことがあった。実際にサンマが非常に食べたかった患者さんだった。