”歳をとっても仕切たがり”
めまいがあるといって当院に来られた。
1年前から歩行時とかにフラフラする。寝ている時はない。
耳鼻科にいったが年相応の難聴がある程度。
内科的には高血圧、便秘、不眠、胃薬などの薬が雑多に処方されている。
MRIも撮って異常はなかったらしい。
当院は近所の人の口コミで来られた。
眼振もないし、小脳症状もない、歩き方も普通だ。
あっても、それほど酷いめまいではなさそうだ。
横になってもらって、診察にはいった。
足は脾経が弱い、腎虚もある。
体格的には大きい方だが腎虚には勝てないのだろうか。
腹はすこし膨満気味だが力がない。
水が多いように思う。
喉の乾燥がある。
喉の乾燥があると、水を飲みやすい、するとめまいにつながる。
気の流れをみると、すこしノボセがある。
漢方的には腎が弱いと耳にきてめまいが起こりやすい。
そうとも思える。
起きてもらって、ツムラの漢方薬のパネルをつかってPTMで合っている漢方を探してみた。
すると「抑肝散加陳皮半夏」が反応した。
これは腎虚の漢方ではない、腎虚なら「八味地黄丸」とかが反応するはずだ。
むしろ怒りとかストレスがあるときの漢方だ。
そこで、患者さんに、聞いてみた。
「何か、ストレスとか、ないですか?」と。
「特にないけど、孫の面倒が大変。」孫は小さくて手が掛かるのだろうか?
「お孫さんは何歳ですか?」
「20歳になった」、小さくはない、手はかからないはずだが。
「20歳になって、何が大変なんですか?」
「食事とか洗濯とか、世話をしている」、世話がいる歳ではないはずだが。。。
「お孫さんと住んでいるということは、子供と一緒に住んでるんですか?」
「娘夫婦を家に住まわせている。主人がなくなった後に。」
それがストレスの原因だろうか?娘だから嫁姑の関係ではない。
なにが問題かわからないのでPTMで易をみてみた。問は「問題は何か?」とした。
すると「火天大有」が反応。
「火天大有」は、盛大、盛運、沢山所有する、などを意味する。
一般的にとても良い卦で、全てが順調に行くときにでることが多い。
でも、ここで聞いたのは「問題」だ。すると「火天大有」の問題点とはなにか?
そこで、また聞いてみた。
「Aさんは全部自分で仕切っていませんか?全部自分の思い通りに動かそうとしていませんか?」
「そんなことはないけど。」
「家はAさんのものでしょう?そこに娘夫婦を住まわせてあげて、孫にも色々言っているし。二十歳になった孫も嫌がりませんか?」
「最近、嫌がって反抗する」
やっぱり!この方はお金はあるし家もあるし、娘家族を支配するような強い位置にいるのだ。
「大有」ほどの勢いがあれば、そのようなことも可能だ。
だから、娘家族に煙たがられて、それがストレスになっているように思われた。
結局、漢方は最初のPTMで選んだままの「抑肝散加陳皮半夏」を処方して、今回は終了とした。
コメント
●「火天大有」は、盛運、盛大、金持ち、物持ち、地位が高い、上昇運、などを意味する。良い意味を表すので、臨床では遭遇すことは稀だ。いままでの臨床では、患者さんが「遺産相続の裁判に勝つだろう」と予想された時に出たことがある。それと面白いのは、更年期症状の「ホットフラッシュ」がある時にこの卦が反応する。「火天大有」は”天に昇る太陽”を示しているので、ホットフラッシュのノボセとこの卦が相応する。
●この例のように、最初に漢方をPTMで選んで、その結果疑問を感じて、ついでPTM易をすることも多い。診察中に自分が予想した漢方とは別の漢方が、PTMで反応することが割りとあるからだ。見逃した問題点を確認するために、PTM易を使っている。
●この患者さんは腎虚があったのだが、まず「抑肝散加陳皮半夏」で気の流れを整えることがひつようになる。そうして初めて「八味丸」などの漢方で腎虚の治療にかかることができる。