”ショックなことで首が回らず”
初診の方。ロックの演奏を趣味でやっている。
9月にライブの演奏の時に大音響の音を浴びてから両方の耳鳴がでてきた。
これだけで騒音性の聴神経障害だと診断できる。
耳鼻科では高周波領域の聴力の低下も指摘されている。
当院に来る前には耳鼻科を数件、神経内科、脳外科、とか沢山の病院を廻っている。
それでも良くならないので、今回、口コミで来られた。
さらに、耳鳴以外にも1年前に精神的なショックな出来事があり、首が半年間動かなかったという。
その時も、整形外科に数件かかったらしい。
今も後頸部の右が痛くなることがある。
耳鳴に関しては耳鼻科から抗不安薬とビタミン剤が処方されているが効果がない。
横になってもらって診察に入った。
足は腎経、膀胱経が流れが悪い。腎虚としていい。肝経には緊張がある。
腹は下腹で突っ張り感がある。これも腎虚の所見ととれる。
胸脇苦満もきつい。
右の「太淵」に接触鍼をあてて全身の気のながれを見る。
確かに首が重たい。頭も重たい。
気のながれは重たいが、なんとか流れてくれる。
起きてもらって、座ってもらい「バッチフラワーレメディ」のパネルをつかってPTMで反応するレメディーを見てみた。
すると「ホリー」が反応。これは、奥に怒りがあるはず。そこで聞いてみた。
「腹が立ちませんか?」
「立ちます。」
「何に腹が立つ?」
「人間。仕事の人間とか、妻にも腹が立つ」
怒りのストレスがある。怒りがあると耳の障害が起こりやすい。
つぎに、PTM易でさらに詳しくみてみた。問は「問題点は?」と立てた。
すると「山地剥6爻」と「沢天夬5爻」が反応した。
「山地剥」は、剥離、剥奪、落剥、倒壊など、物事が崩れることを意味する。
6爻は頭の部分なので、多分”耳の障害”を意味するのだろう。
この場合、大音響が耳に打撃をあたえて、その機能を”剥奪”したと解釈できる。これが一つの問題点だ。
次に「沢天夬」は何か?この卦は、決断、決裂、決壊などを意味する。
この方は1年前にショックな事があり首が回らなかったと言っている。
その影響がいまだにつづいて後頸部の痛みが残る。
5爻は通常は「胸」に対応するが、首と見てもいいだろう。
山地剥の頭に相当する6爻より下だからだ。
すると、1年前に何か決断を要するショックなことがあったか、あるいは決裂、決壊のような事情があったのではないだろうか?そこで聞いてみた。
「1年前に、なにか決裂とか、決断をするような事がありましたか?」
「うん、ありました、音楽のバンドが解散して、自分が出ていった。」
バンドの”決裂”とそれに続く、出ていくという”決断”だ。
それがこの方にとってすごくショックだったのだろう。
さらに話を聞くと、音楽はセミプロ並みでバンドも有名だったという。ところが、内部にもめ事があって、リーダー格のこの方が出ていかざるをえなくなった。それがいまだにストレスとして残っていて首が回りにくい。
病状の裏の事情はわかった。
さて、治療はどうするか。漢方をPTMで選んでみた。すると「抑肝散」を主に、従として「八味地黄丸」、「大防風湯」が反応した。飲み方もPTMで検討すると抑肝散1包+八味地黄丸1/2包+大防風湯1/2包を混合して、1日2回飲むようにと組み立てた。この処方で”怒り”と”腎虚”に対応できそうだ。10日間処方して今回は終了とした。
コメント
●「沢天夬」は、決断、決裂、決壊、などを意味する。この卦の図を見てわかるように、1~5爻の陽爻が6爻の陰爻を押しのけようとしている。陽の方が陰より強いので、危ない状況だ。内部からの圧力が高まって今にも噴火しそうなイメージだ。今までの例では「忙しすぎて爆発しそう」、「自殺願望があり危ない」などの時に出たことがある。
●「山地剥」は、「沢天夬」の伏卦(裏の卦)にあたる。陰陽をひっくり返すとお互いに変化する。危ない状況としては2つとも似ている。違いとしては、「山地剥」の場合は、1~5爻が陰爻なので、足元が崩れて倒れるイメージだ。あるいは、なにか外力が働いて剥ぎ取られるイメージだ。
●耳は腎経と結びつくので、耳の問題では腎虚が出ていることが多い。でも、急に起こった耳の障害は怒りなどの肝の障害も入っている。突発性難聴などはその典型例だ。腎だけ処置しても良くならない。