「山風蠱」症例4:30代男性

”ADHDはうっかり屋さん”

始めて受診されたかた。
友達からの紹介。
訴えは、仕事から家に帰ると不安になる、という。
顧客から話をきいて施行の予定をたてるときに、話の内容を忘れることがある、という。
図面をみながら現場で予定を立てる時に頭が混乱する、という。
どんな仕事をしているのか、聞いてもすこしわかりにくい。
要領よく要点を話してくれない。
施工と計画の間の中継ぎのような、割振りのような仕事をしているのか。
現場と事務の中間的な仕事をしているように思える。
心療内科にはまだ受診していない。

横になって見せていただくことにする。
脚には緊張を認める。
腹には胸脇苦満がすこしある。
首が重い。
左の半身の気の流れがわるい。
これだけだと、何が問題かわからない。

とりあえず、起きてもらってPTMで漢方を探してみた。
しかし、スッキリする処方が反応しない。
その場合は、西洋薬に適当な薬があることがある。
『今日の治療薬』の目次をつかって合う薬がどの分類にあたるのか探してみた。
すると「40.抗精神病薬、抗うつ薬、その他」で反応する。
抗精神病薬のいくつかを順にスキャンするが見つからない。
抗うつ薬でも、同様に見つからない。
なにかスッキリしない。

そんな時には、易に聞くことにしている。
「体の奥の問題は?」とPTMで易をみた。
すると、「天水訟」「山風蠱」が反応した。
天水訟は、訴えや苦情があるときにでる。
「誰かに訴えたいことはないですか?」
  「まあ、上司に仕事のことで、言いたいことがあるのですが、」
「なにを?」
  「調子が悪いこととか、集中できないこととか。。。」
山風蠱は、汚れている、腐敗している、病気、などのときに出る。
でも、この方ははっきり病気と言えるほど、症状があるわけではない。
それなら、部屋が汚れている可能性がある。
「部屋が汚れていませんか?」
  「そうです」
「片付けは苦手ですか?」
  「できません」
やっぱりそうだ、ADHD(注意欠陥多動性障害)かもしれない。
ADHDの方は片付けができない。注意の集中が続かない。物を忘れやすい。段取りが苦手。
などの、症状がある。
そこで、診断基準のリスト(図)をつかってチェックしてみた。

『精神診療プラチナマニュアル第2版』(朝倉朝樹著)より

すると、「不注意」項目はすべて当てはまった。
「前から、うっかり屋さんでしょ?」
  「そうです」
「うっかり症候群というのがあるけど、それじゃないですか?」
  「そうかもしれないと、前から思っていました。」
私はADHDという言葉がわかりにくいので、患者さんには「うっかり症候群」と説明することがある。
そこで、再度「今日の治療薬」を開いて、ADHDに効く薬をPTMでチェックした。
すると、ストラテラが反応。
ADHDでいいだろう。
ADHDの方は、段取りが苦手なので、今のような調整役的な仕事には向いていない。
話によると、以前の現場の仕事は楽しくできていたようだ。
今回は最後に、ストラテラと抑肝散を処方した。
そして、ADHDの疑いが濃厚であれば、精神科を受診して診断書をもらって仕事の配置換えを上司にいってみることを勧めた。

コメント

●「山風蠱」は、汚れ、腐敗、内部崩壊、病気、などたくさんの事例として臨床で遭遇する。

●以前に書いたが、「山風蠱」はADHD(注意欠陥多動性障害)の患者さんで反応することがある。
ADHDの方は「片付け・掃除ができない」ことが特徴の1つだ。いままで見つかっていなかったADHDがこの卦をきっかけで見つかることがある。大人で、精神的な問題を抱えている方のいくらかはADHDが基礎にあるようにおもう。
通常の診察では、患者さんが言わないのでわからない。
精神科に通っている患者さんでさえ見逃されていることがある。
易の「山風蠱」と「今日の治療薬」のストラテラなどのPTMで推定して、
そのあとで診断基準を満たすかどうかチェックしている。
ADHDにはつかえる薬がいくつかあるので、患者さんにとってはラッキーだといえる。

●ADHDを、私は患者さんに「うっかり症候群」と言って説明している。ADHDと言っても患者さんにとってピンとこないし、気にしてしまう。「うっかり」はADHDの本質的な部分をいっているので、患者さんには納得しもらいやすい。