「山雷頤」症例2:60代女性

”施設は嫌よ”

毎月来ていただいている方。
冬のこととて冷えがあるので、前回は
あしにお灸を勧めた。
お灸で足は暖かくなったし、膝の痛みもましになったという。
体調はそれほどわるくない。
睡眠も良い。
しかし胃がすこし重いという。

横になって診察する。
足は少し緊張。
冷えがあるが軽度だ。
腹はやや虚で力がない。
胃の動きが悪い。
太淵に鍉鍼を当てて集中してみると、
頭が重いのがわかる。
のぼせていて上半身が暑い。
目も乾燥している。
考えることが多いのだろうか?
なにか心配があるのだろうか?そこで聞いてみた。
「なにか心配はありませんか?」
  「母を施設に入れようかと迷っている。」
お母さんが85歳になって、独居状態だという。
それで役所の人に施設に入れることをすすめられたという。
患者さんとは距離があるのでそれほど行けない。
でも、お母さんは昔から気ままで施設は合わないのではないかと、心配されている。
いつも勝手に生きてきた人なので集団生活はストレスが溜まるだろうという。

そこで起きてもらって、易で聞いてみた。
いつもの、投げ算木をつかって下から卦を組み立てる。
まず「施設にはいるとどうなるか?」と問いを立てた。
すると「山雷頤3爻」が出た。
山雷頤は”食べさせる”卦。口に関係する。
施設に入ると食べることには苦労しないだろうから、この卦の意味はわかる。
しかし、3爻の爻辞をみると、「払頤。貞凶。」(いにもとる。ただしけれどきょう)とある。
食べれることは食べれるが、しかし食べさせ方が良くないという意味だろう。

そこで反対に、「今まで通り、一人で住むのはどうか?」と問いを立てた。
すると「地沢臨5爻」が出た。
地沢臨は消長卦のひとつで、次に地天泰になる手前の卦だ。
とくにご老人では”健康体”を意味する。
また5爻は「観我生。君子无咎。」(わがせいをみる。くんしはとがなし。)とあった。
自分の生活を見るので、自分で自分の面倒を見ると解釈できる。
この方のお母さんは85歳だが元気で、まだまだ自分で生活できるのだ。

やっぱり、施設に入れないほうがよいだろうという結論に到達した。
患者さんも納得したので、そのような方向で進むことにするという。
漢方は六君子湯を処方しておわりとした。

コメント

●「山雷頤」は口に関すること、食べること、食べさせることを意味する。臨床的にも同じようなシチュエーションで出る。「アメリカの食事があわない」、「養育費が少ない」、「食中毒になった」などで出たことがある。

●歯や顎の問題は「火雷噬嗑」が反応することが多い。火雷噬嗑を参照。

●算木で卦を立てたときは、卦が一つしか出ないので、略筮法とおなじである。したがって変爻や爻辞を参考にすることが多い。

●「地沢臨」は地天泰になろうしている卦なので一般的に良い意味が多い。