”ウチの犬は動物、それとも家族?”
数ヶ月ごとに思い出したように、きてくれる人。
今回は、身体のあちこちが痛いと言ってこられた。
肩と、背中、腰、膝もいたいという。特に左のいたみが酷い。
内科や整形外科には行っていない。
薬も飲んでいないので、それほどの激痛ではないだろうと予想する。
横になってもらって診察に入る。
足は冷えがある。やや乾燥している。
経絡では肝経の緊張がある。
腹は胸脇苦満を認める。
とくに左の胃の上あたりに突っ張りがある。
(これはストレス、とくにイライラがある時に出やすい)
さらに、診て行くと、高次のレベルでも気の流れがわるい。
やはりストレスがあるのだろうと予想する。
患者さんには「なにかストレスとかありませんか?」と聞いてみる。
すると、「特にないなー」と答える。
そうだろうか??と、疑問に思いながら起きてもらう。
そして座ってもらい、PTM易で「気の流れがわるい原因は?」という問を立てた。
すると、「山風蠱4爻」「風火家人4爻」「雷沢帰妹」「天雷无妄」が反応した。
反応が一つだけだと問題の同定が困難になることがある。
でも、沢山反応しすぎても、本質が見えにくい。
今回は4個と多い。さて、どうするか?
問題が2個のこともあるので、色々組合せながら絞り込んでいく。
まず、「風火家人」は素直に”家の人”、「雷沢帰妹」は”結婚”だろう。
この年になって恋愛はないだろうから、ならば、この2つの卦は”ご主人”を意味するのではないか?そこで聞いてみる「ご主人は何か問題はありませんか?病気とか、ストレスとか?」。
すると、心臓が悪くて去年入院したこと、最近1週間前から下痢をしていることを教えてくれた。
また「山風蠱」は”病気”を意味する。”ご主人の病気”ということで、質問はいい線を突いている。
さらに「山風蠱」と「風火家人」は4爻が反応したので、
「ご主人は2階に住んでいませんか?」と聞いてみた。
今までの経験では、内卦は1階、外卦は2階のことが多かったからだ。
すると、「2階に部屋があって、あまり下りてこない」と言う。
これも、当たりだ。
さらに「山風蠱」は病気以外にも”汚い、掃除ができていない”ことも意味するので、「2階は汚れていませんか?」と聞いてみた。
この質問に対しては、「掃除しているのでそんなことはない」と否定された。
さて、残りの「天雷无妄」は何だろうか?この卦は”自然現象”を意味することが多い。
病気も自然現象だが「蠱」がすでに出ている。
今までの流れだと、”ペット”ではないだろうか?と思いつく。
動物は自然物の中に含まれるからだ。
そこで「ワンちゃんとか猫とか、いませんか?」と聞いてみた。
すると「主人がチワワをかわいがっていて、2階でいつも一緒にいる」と答えられた。
この質問も当たりだ。
このワンちゃんは家族同様になっていて、おそらく「風火家人」の意味もかかってくる。
さらに、犬が2階にいつもいるのなら、汚れてもおかしくないのでは?と疑問が湧く。
そこで「ワンちゃんがいると、掃除しても2階が汚れませんか?」と聞いてみた。
これに対して「15歳の老犬なんで、よくおしっこを床に漏らすんですよ」と答えられた。
やっぱり、それなりに、2階は汚れている。「蠱」と見てもいい。
この「蠱」は、”ご主人の病気”と”犬のおしっこ”の2つを意味すると了解した。
更に聞くと、ご主人が病気でありながら頑固で、今回も東京である結婚式に参加すると言う。奥さんはコロナが流行っているので止めたが行くと言って聞かない。これらもイライラする原因になっているという。
以上でわかったことは「2階にこもっているご主人が病気がちでかつ頑固で、それがストレスの原因になっている。さらに、ご主人がかわいがっている犬も老衰して尿をもらして床を汚すので、しょちゅう拭かないといけない、これもストレスになっている」と言うことだった。
漢方は、イライラに効く「抑肝散加陳皮半夏」を処方して、今回は終了とした。
コメント
●「天雷无妄」は本来、”自然のなり行き任せ”などを意味する。私の臨床では、頻回に反応する卦のひとつだ。意味することが広くてわかりにくい卦とも言える。具体的には、自然現象、動物、植物、風、欲望、本能、無意識に行動する、などを意味することがある。面白い例では「天雷无妄」+「巽為風」で”花粉症”を意味したことがある。簡単に言うと「天雷无妄」は”植物の花粉”、「巽為風」は”風が吹くこと”なので、”風に飛ばされた花粉”で”花粉症”になった。
●「山風蠱」、「風火家人」、「雷沢帰妹」は別の症例で書いたので見てください。
●この例のように多数の卦が反応すると、余計にわかりにくくなることがある。その時は問題が複数あるかもしれないので、上に示したように組合せて絞っていく。さらに、最初の問を立てる時に「最も重大な問題点は?」と、最上級できいてもいい。すると、反応も少数になり絞りやすくなる。この例でいうと、多分「風火家人」と「山風蠱」がでて”ご主人の病気”を示唆するような形に落ち着いたのではないだろうか。