「天地否」症例1:20代男性

”八方否塞なら逃げるが勝ち ”

 初診の方。職業は建物の塗装や内装をやっている。
20代とわかい男性。
今回の主訴は変わっていた。2月前からやる気がでないという。
さらに、1月前に現場で右足を捻挫して、2週間仕事を休まざるをえなくなった。
それが治ったら、今度は扁桃腺炎とリンパ節炎になった。
それで高熱が出て、点滴をうってまたしばらく仕事を休んだ。
扁桃腺炎は治ったが、今度は1週間前に発熱があり、コロナかと思ったが検査したがマイナスだった。内科でもよくわからないので、とりあえず抗生剤と解熱剤が処方されている。

 なにか、釈然としないものを感じながら、横になってもらって診察にかかった。
足は肝経の流れが悪くなっている。経絡の所々で気が淀んでいる感じだ。
腹は腹直筋の緊張がある。
喉はイガイがして、かつ皮膚の荒れがありアレルギーもある。
見た感じでは、どこかに発熱の感染源があるように思えない。
診察しながら、”やる気が出ない事情”を聞いてみた。
すると、以下のことを話してくれた。

 塗装と内装業をしているのだが、1年前から付いた親方と相性がわるく、
3月前に別の親方の下に入れてもらったらしい。
仕事はその親方からもらっている。
ところが、今の親方の下で働きだして、2月前から始まった現場で前の親方と出くわした。
その親方も子分を率いて現場に来ていた。
前の親方からは、現場では直接、間接なにかと嫌がらせをされるらしい。
それに腹が立ったり、不安になったり、イライラしたりしている。
おまけに、仕事がはかどらないので、給料もとても少ないという。
それらがストレスだとおっしゃった。
それもそうだろう、と同情する。
ストレスの原因は、はっきりしているので対処法が問題になる。

 そこで、起きてもらい座ってもらってPTM易で「どうすればいいか?」と聞いてみた。
すると、「天地否3爻」と「雷火豊4爻」が反応。
「天地否」は良い卦ではない。物事が、流れが悪くなり滞っていることを意味する。
停滞、不通、否定、などを意味する。これは、ズバリこの方の今の状況だろう。
また、「雷火豊」は、一般には”豊か”の意味だが、「火」の上に「雷」が乗るので「ガミガミ言う人」を意味することがある。だから、うるさい前の親方のことだろうと予想する。
患者さんに聞くと、前の親方はよく怒鳴る人のようだ。これも正しい。

 しかし、チョット待てよ、、、、?
聞いたのは「どうすればいいか?」であって、今の状況ではない。
それなら変爻を使うのが易の常道だ。
そこで、爻を変じて之卦(しか)を見てみた。
すると、「天地否」3爻は変じて「天山遯」になった。
これは、”遯(遁)走”の意味する如く、そのまま”逃げろ”という意味。
とくに「天地否」3爻の爻辞は「包羞」とあるので”恥を忍んで逃げろ”と解釈できる。

また「雷火豊」4爻は変じて「地火明夷」になる。
「地火明夷」は”明るい太陽が地下に入った”象なので、
これも、”今は地下に隠れろ”という意味。
結局、この2つの之卦でこの方の対応策が明瞭になった。
つまり、採るべき方法は「なるべく前の親方から隠れて逃げろ」ということになった。
患者さんにも、今までの卦の変化をはなして、理解してくれたようだった。
患者さんは身体が暖かくなって、しきりに「不思議だ」といっておられた。

漢方は、PTMで「補中益気湯」と「モンテルカスト」を選んで、終わりにした。

コメント

●「天地否」は、否定、否認、不通、否塞などの意味がある。成書では、内卦の「地」は下に降りる性質があり、外卦の「天」は上に昇る性質があり、お互いに離れ離れになり気の交流がなくなるので良くない、と説明される。私の臨床では「上司は勝手で、部下が離れていく」というような仕事上のトラブルで出たことがある。

●「雷火豊」は前にも書いたように、騒々しい、うるさい人、で出ることがある。クリニカル易占では”豊か”という意味ではでにくい。面白いのは”お菓子の食べすぎ”でもこの卦が反応する。

●「天山遯」は、遁走、逃げる、撤退の意味がある。

●「地火明夷」は、地下に隠れる、正しいものが通用しない、暗いなどの意味がある。

●この症例では「どうしたらいいか?」という問いに対して、最初から対応策の「天山遯」が出なかった。でた卦の「本卦」で現状が示され、変じたのちの「之卦」で対応策が示された。何故だか回りくどい。
しかし、易ではこのようなことがよくある。まず、現状認識が大切ということだろうか。
問題を抱えている本人もなにが問題かよくわかっていないことがおおいので、まず現状を知りなさいということかもしれない。