「雷風恒」症例1:20代男性

”若者は「恒」より変化を求む”

 お母さんが当院に通われている方。
2週間前から風邪を引いたと言ってこられた。
当院は2年ぶり。
症状は、鼻がでる、微熱があったりなかったりで、頭痛がある。
とくに風邪に特徴てきな症状でもない。
見るからに、雰囲気が暗く、イライラしているよう思える。

 何かわからないので、横になってもらって診察した。
足は、足先に冷えがある。
またスネの当たりに肝経から胃経にかけての緊張がある。
痩せている。筋が張っている感じだ。
腹は、腹直筋の緊張がある。
胃の流れが良くない。
自律神経の緊張を疑わせる所見だ。
全体の気の流れを見ると、停滞がある。
全体的に重たい。

 頭が重いのは、ストレスがあるからだろうか?
「なにかストレスはありますか?」と聞いてみた。
  「ありますよ、仕事が忙しいし。」と答える。
「仕事が多くて、ストレス?」
  「それもあるし、雰囲気が悪くて」。人間関係が問題なのか?
「同僚ですか、上司ですか、それとも部下ですか?」
  「同僚かな。。。」
「そんな、ストレスはいつから?」
  「4月に転勤したんで、学校をかわった。」そこで、学校の先生だとわかった。
「そうか、合わない学校に変わったんですね?」
  「そうですね。良くない。」とおっしゃる。
「生徒の雰囲気がわるい?」
  「生徒はいいんです。周りの雰囲気がわるい。自分にあわない。」と言う。

 そこで起きて座ってもらってPTM易で「学校の何が問題か?」を聞いてみた。すると、「天火同人」、「雷風恒」、「雷火豊」が反応。
「天火同人」は、患者さんは”同僚”が問題といっているので、それを意味するのは明らかだ。
「雷風恒」はあまり出ない卦でよくわからない。”恒常、一定、不変”とかを意味する。”不変”の何が問題なのか?
「雷火豊」は、比較的よく出る卦だ。”豊か、豊富、賑やか、活発、うるさい”などを意味するので、こちらから聞いてみた。
「まわりの、同僚がうるさいことないですか?」
  「全然。みんな暗くて、シーンとして。僕が明るくしようとして、無理に賑やかに振る舞っている。」と答えた。
なんと、「雷火豊」はこの患者さんだった。
すると、「雷風恒」は何か?今までの話では、同僚の先生方または学校の体制を意味するように思える。
多分、体制が”不変一定”のままで、雰囲気が単調で暗くなってしまっているのだろう。変化が全くないような沈滞した状態をイメージした。そのような学校は、この患者さんのような若い人には苦痛に感じるのだろう。ここでは「恒」のマイナスの意味が見て取れた。
易では「恒」において「夫婦和合の恒常性の徳」を説く。
でも、このような徳は、結婚もしていない、若い人にとっては無縁といえる。
「変化がなくて、活気がなくて、暗くて、ストレスを強く感じるんですね?」
  「そうなんです」
「恒」がでたんで、ここは、しばらく待たないと仕方ないかもしれない。
しばらく我慢するように患者さんに言った。

 漢方は、患者さんのイライラに対して「抑肝散加陳皮半夏」を、冷えにたいして「桂枝加朮附湯」を処方して、今回は終了とした。

コメント

●「雷風恒」は、恒常、恒久、不変、一定、などを意味する。それほど臨床では出ない卦だ。この症例では「恒」が強調されて問題となっていた。
以前「仕事に変化があって適応できない」状況で出たことがある。この場合は「恒」の反対の「変化」が問題となっていた。
卦の意味を現実に当てはめて解釈する時、その意味が「強調」されるのか、「低減」されるのか、「反対」の意味になるのか、「誰に」その意味を当てはめるのか、などを常に考える必要がある。

●「天火同人」は、同僚、仲間、同級生、知り合い、などを意味する。

●「雷火豊」は、豊か、豊富、豊作、金持ち、賑やか、甘い物、などを意味する。臨床的には、「甘いものの食べすぎ」で出ることが多い。