「火天大有」症例1:70代女性

”歳をとっても仕切たがり”

 めまいがあるといって当院に来られた。
1年前から歩行時とかにフラフラする。寝ている時はない。
耳鼻科にいったが年相応の難聴がある程度。
内科的には高血圧、便秘、不眠、胃薬などの薬が雑多に処方されている。
MRIも撮って異常はなかったらしい。
当院は近所の人の口コミで来られた。

 眼振もないし、小脳症状もない、歩き方も普通だ。
あっても、それほど酷いめまいではなさそうだ。
横になってもらって、診察にはいった。
足は脾経が弱い、腎虚もある。
体格的には大きい方だが腎虚には勝てないのだろうか。
腹はすこし膨満気味だが力がない。
水が多いように思う。
喉の乾燥がある。
喉の乾燥があると、水を飲みやすい、するとめまいにつながる。
気の流れをみると、すこしノボセがある。

 漢方的には腎が弱いと耳にきてめまいが起こりやすい。
そうとも思える。
起きてもらって、ツムラの漢方薬のパネルをつかってPTMで合っている漢方を探してみた。
すると「抑肝散加陳皮半夏」が反応した。
これは腎虚の漢方ではない、腎虚なら「八味地黄丸」とかが反応するはずだ。
むしろ怒りとかストレスがあるときの漢方だ。
そこで、患者さんに、聞いてみた。
「何か、ストレスとか、ないですか?」と。
  「特にないけど、孫の面倒が大変。」孫は小さくて手が掛かるのだろうか?
「お孫さんは何歳ですか?」
  「20歳になった」、小さくはない、手はかからないはずだが。
「20歳になって、何が大変なんですか?」
  「食事とか洗濯とか、世話をしている」、世話がいる歳ではないはずだが。。。
「お孫さんと住んでいるということは、子供と一緒に住んでるんですか?」
  「娘夫婦を家に住まわせている。主人がなくなった後に。」
それがストレスの原因だろうか?娘だから嫁姑の関係ではない。
なにが問題かわからないのでPTMで易をみてみた。問は「問題は何か?」とした。
すると「火天大有」が反応。

 「火天大有」は、盛大、盛運、沢山所有する、などを意味する。
一般的にとても良い卦で、全てが順調に行くときにでることが多い。
でも、ここで聞いたのは「問題」だ。すると「火天大有」の問題点とはなにか?
そこで、また聞いてみた。
「Aさんは全部自分で仕切っていませんか?全部自分の思い通りに動かそうとしていませんか?」
  「そんなことはないけど。」
「家はAさんのものでしょう?そこに娘夫婦を住まわせてあげて、孫にも色々言っているし。二十歳になった孫も嫌がりませんか?」
  「最近、嫌がって反抗する」
やっぱり!この方はお金はあるし家もあるし、娘家族を支配するような強い位置にいるのだ。
「大有」ほどの勢いがあれば、そのようなことも可能だ。
だから、娘家族に煙たがられて、それがストレスになっているように思われた。

結局、漢方は最初のPTMで選んだままの「抑肝散加陳皮半夏」を処方して、今回は終了とした。

コメント

●「火天大有」は、盛運、盛大、金持ち、物持ち、地位が高い、上昇運、などを意味する。良い意味を表すので、臨床では遭遇すことは稀だ。いままでの臨床では、患者さんが「遺産相続の裁判に勝つだろう」と予想された時に出たことがある。それと面白いのは、更年期症状の「ホットフラッシュ」がある時にこの卦が反応する。「火天大有」は”天に昇る太陽”を示しているので、ホットフラッシュのノボセとこの卦が相応する。

●この例のように、最初に漢方をPTMで選んで、その結果疑問を感じて、ついでPTM易をすることも多い。診察中に自分が予想した漢方とは別の漢方が、PTMで反応することが割りとあるからだ。見逃した問題点を確認するために、PTM易を使っている。

●この患者さんは腎虚があったのだが、まず「抑肝散加陳皮半夏」で気の流れを整えることがひつようになる。そうして初めて「八味丸」などの漢方で腎虚の治療にかかることができる。