「沢雷隨」:症例1:40代男性

”顔をそむけて体は従う”

 頭痛があるので来られた方。
もともと頭痛もちだが最近特に酷いという。
ほぼ毎日頭痛があって、鎮痛剤を連日飲んでいる。
胃も痛くなって、体調不良がある。
仕事のストレスは最近とくに多くなったとおっしゃる。
高血圧が見つかったので内科からはアムロジンが開始された。
疲れもあり、寝ても次の日が起きるのが辛いとおっしゃった。

 横になってもらって診察した。
足は緊張がある。肝経から胃経にかけてスネの面に緊張が強い。
冷えはあまりないが、乾燥がある。
腹は腹直筋の緊張がある。食事は取れているようなので栄養はOKだ。
下腹の腎の問題もない。
太淵に接触鍼を当てて全体の気をみると、流れが悪い。
頭が重く、ボーッとした感じがある。
目も重たくショボショボしている。
軽いノボセがある。
総合的に、ストレスと疲れがあるのがわかる。
患者さんの言うように仕事におけるストレスだろう。

 大体「証」は取れたので、起きてもらい椅子に座ってもらいPTM易を行った。
問は「気の流れの悪い原因は?」とした。
すると、「地水師」、「沢雷隨」、「火沢睽」が反応した。
話から、ストレスの原因は仕事場にあるのは明らかだ。
これらの3つの卦は仕事環境のことを表しているとおもわれる。
プライベートのことを示唆するような卦ではない。
「地水師」が典型だ。コレは”争い事、仲違い、競い合っている”時に出ることが多い。
とくにグループ間の争いでよく出る。
会社は集団、グループなので、仕事場で皆が争っているのだろうか?
その点を患者さんに聞いてみた。
「仕事場でみんなが、仲が悪いとか、張り合っているとかありませんか?」
  「特に仲が悪いわけでないけど、みんなバラバラで、ギスギスして競争している感じがする」とおっしゃった。確かにコレは「師」でいいだろう。
次に「火沢睽」だが、コレはお互いに”背くこと、反目すること”を意味する。
指を動かして爻を追っていくと、4爻で反応したので、恐らくこの方と上司が反目し合っていると予想した。そこで次のように聞いてみた。
「上司とかと、意見や方針があわないことないですか?」
  「そうです」と答えが返ってきた。
上司の方針が患者さんが考える事と合わないらしい。
それに対しては、沈黙して反論できないようだ。
上司は会社の権威をバックに自分の意見を押し通すらしい。
組織なので仕方がないともいえる。
最後に「沢雷隨」はどうなるか?
ここまでの流れで、話の筋がみえてきたので患者さんに聞いてみた。
「上司と意見が合わないけど、無理に従ってないですか?」
  「そうです。無理に従っている感じです。なんだか媚へつらっているような気がして、それもストレスになっている」
そうなのだ。「随」は”付き従う”ことを意味する。
それがすぎると、”盲目的に”あるいは”媚へつらって”従うことになってしまう。
コレは「随」のマイナスの面が強調された場合だ。

 以上から、患者さんの会社のストレス状況が把握できた。
つまり”会社は競争が激しく、その中でこの方は上司の方針と合わないので背きたい、でも組織の中なので従わざるをえず、それがストレス状況を作っている”と判断した。
さて、どうするかだが、漢方はPTMでは炙甘草湯が反応した。これは疲れが今の最大の問題になっていることを意味する。だからまず、疲れに対して治療するのが良いといえるので、炙甘草湯を処方して今回は終了とした。

コメント

●「沢雷隨」は、従う、随従、追随、服従、付いていく、などを意味する。私の臨床ではあまり出ない卦だ。以前、患者さんの家族が亡くなったときに、その方は「阿弥陀如来に従って」大往生だったということで、出たことがある。

●「地水師」は、争い、戦い、競争、などを意味する。私の臨床では頻回に出現する。

●「火沢睽」は、背く、半目、顔を背ける、などの仲が悪い時にでる卦だ。これもそれほど頻回出る卦ではない。以前、会社を辞めようと思っている人で「会社からすでに顔をそむけている」時に出たことがある。