「沢水困」症例1:40代男性

”研究室から出てナンパしろ”

最近不眠が続くと言ってこられた。
やる気がなくて、早朝覚醒がある。朝も起きれないという。
本来なら心療内科に行くところだが、当院に来られている母の紹介でくる。

座ったところをみると、色が白くて上品そうな方。
知的な印象を受ける。明らかに体育会系ではない。
話を聞くと、企業の研究職で医薬品の開発に携わっている。
でも、今やっている仕事が暗礁にのりあげ、進まなくて困っているという。
このまま進むか、止めるか、悩んでいるという。
部下も思うように動いてくれず、上司からもプレッシャーがありイライラするという。明らかにストレス状況にある。

そこで横になってもらって、診察した。
足は緊張している。手足がすこし湿っているので自律神経の緊張がある。
腹も、腹直筋は薄くて緊張気味。両側にかるい胸脇苦満をみとめる。
同時に、頭が重く、気のノボセもある。
仕事が進まなくて、周りからのプレッシャーがあり、腹が立っているので
診断はストレス障害といえる。

そこで、起きてもらって椅子に座ってもらい、確認のためにPTM易で「この方の問題点は?」と聞いた。
すると、「沢水困」と「天風姤」が反応。
「沢水困」は、患者さんは困っているのだから、今の状況を説明するので納得。
でも「天風姤」はなにだろう?「天風姤」は、一般には出会いを表す。
特に男女との出会いを意味することが多い。
それとこの方のストレス状況が、どう関係するのか?
わからないので聞いてみた。
まず、直接聞きにくテーマなので、間接的に「結婚されてますよね?」と尋ねてみた。すると「いや、まだなんです」とおっしゃる。
40代半ばで当然結婚している思ってたので、意外性にびっくりする。
「それじゃ、彼女とかは??」と聞いたら、
「いや、いないんです」と言う。
「そうなんですか。。。」背が高く、ハンサムだし、一流企業につとめているので、不思議に思う。
「母も、心配しているので。。。」「自分も気になっていて。。。」と言われる。
「この卦(天風姤)は男性が女性に話しかける卦なんですが、話しするチャンスは?」と聞くと。
「研究室にいて、全然ないんです」と答えてくれた。
そうすると「沢水困」が理解できた。
「困」はなにかに”閉じ込められて困っている”象なので、この方は”研究室に閉じ込められている”のだと分かった。

仕事のストレスが確かにあるのだが、その奥に、この方の人生の問題があった。
女性との付き合い、男性性女性性の統合の問題がある。
見た目は女性的な方だが、やっていることは頭脳労働なので男性的な仕事。内面は男性的とも言える。
だから、この方に必要なのは、魂のバランスを取るために、外的には男性的に行動すること、内面は女性的な感性や感情を育てることが必要なのだろう。
それが、当面のストレスとどう関係するのか、はっきり言えないが、
女性と付き合うことにより、具体的には、話相手ができるかもしれないし、ストレスに対する耐性ができるかもしれないし、何らかのプラスの効果が期待できる。

思いもよらない易の卦にビックリしたが、この方にたいするアドバイスは、上司にどうしろ、部下にどうしろ、というのではなくて「研究室からでてナンパしろ」となった。ナンパはともかく、お見合パーティー、マッチングサイトなど、情報時代の方策はいろいろあるので、試してみるように勧めた。
漢方は、PTMで、イライラに対する抑肝散加陳皮半夏を処方して、終了とした。

コメント

●「沢水困」は四大難卦の一つで、困難、困窮、困苦などを意味する。PTMによる私の「クリニカル易占」では、「教室に閉じこめられて困っている」、「棺桶に入れらている」、「手術のベッドに寝かされている」、「秘密を閉じこめている」などのように、”閉じこめている”、”縛り付けられている”などのような意味で出たことがある。これは「困」の字から想起できる象のイメージ群だ。

●「天風姤」については別の症例で述べたように、突然の出会い、男性が女性に声をかけるという意味で出ることが多い。この方の場合は、「女性に声をかける機会がない」という意味で解釈された。卦の意味を取る時、それをプラスに解釈するか、マイナスに解釈するかはその時の状況による。

●いつも思うのだが、易により、患者さんが述べる表面的な問題より深い問題が指摘されることがある。カウンセリングでも精神分析でもそこまで到達するのは時間がかかるであろう。PTM易では、この例のように、直接的に人生の問題点が明らかにされることがある。