「坤為地」症例1:50代女性

坤の徳は中心軸が透明、スルリと入ってスルリと抜ける

 前回は、軽いめまい感、呼吸困難、倦怠感、頭の重さなどの不定愁訴で来られた方。
酸棗仁湯と抑肝散加陳皮半夏を処方して帰ってもらった。
その後3週間後に再診。
漢方が効いたようで、頭の重さも減って、めまいもなくなったという。
「あの処方だったら、やっぱりストレスがあったのと違いますか?」と、私。
  「そうかもしれません。仕事が忙しいから」と、患者さん。

 横になってもらって診察にはいった。
足には浮腫がある。冷えもある。
冷えは左の腰につながって、腰の動きが悪くなっている。
腹は両側に胸脇苦満がある。
右の太淵に接触鍼をあてて全体の流れを見ると、流れが悪い。
顔のピリピリ感があり、アレルギーもありそうだ。
首が重く、のぼせもある。

 起きてもらって、椅子に座ってもらいPTMでツムラの漢方のパネルを使って、漢方の選択を開始した。
でも、何故か、適当なのがない。反応が鈍い。
こんなときは、西洋薬が効くことがあるので、いつものように
『今日の治療薬』の目次を使ってPTMでスキャンした。
でも、西洋薬のなかにも反応するのが見当たらない。
さらに、ホメオパシーやハーブなどをPTMでみても反応がわるい。
なにかスカッと当たらない感じだ。
こんなことは稀にある。
何を探しても、あっている治療薬がない。困ってしまった。どうするか?

 仕方がないので、原因から入ることにした。
そこでPTM易で「何が問題か?」と聞いてみた。
すると、色々たくさんの卦が反応する。10個以上の卦が反応。
これでは、解釈できない。多すぎる。
気が不安定になっていて変動しやすいのだろう。
そのような人は時々いる。
仕切り直しの意味で、今回は「一番大事な問題点は?」と聞き直した。
すると、「坤為地」、「天火同人5爻」、「火天大有5爻」、「沢山咸」、「地風升」が反応した。それでも、反応は普通の人より多い。
「天下同人」は同僚、仲間を意味する。
前回の漢方からストレスがあるのがわかっているので、多分同僚がストレスに関係するのだろう。
特に5爻なので上司だろうと予測した。
「上司が苦手な人がいませんか?」と、聞いてみた。
  「一人いるんです。その人がいるだけで圧迫感、威圧感をかんじて、ドキドキする。」
ドキドキする感じは、「沢山咸」が示しているのだろう。この卦は感受性を意味する。特に、「威圧感」の文字「威」と「咸」は似ているのも気になった。
さらに、「火天大有5爻」は支配的な人柄を示している。加えて「地風升」は上昇志向の強い人ではないかと予想した。
「その人は、支配的で、出世欲がつよい人でないですか?」と、聞いてみた。
  「そうです。そうなんです。」と、答えてくれた。
この人のように、ひ弱な女性にとっては、そのようなアクの強い男性は苦手だろう。

 さて、「どうしたらいいか?」と、何気なく思って、残りの「坤為地」を触っていると、強い反応がでてきた。
「この卦は解決方法を示しているのではないだろうか?」と気づいた。
さっき問題点をきいたときに、すでに「坤為地」が弱く反応していたのは、多分、無意識は解決方法も同時に提示していたのではないか?
あらためて「どうしたらいいか?」とはっきりと聞きなおすと、「坤為地」の反応はますますつよくなった。
それとともに、患者さんの首が軽くなり、腰の重たさも取れていった。
あたかも体の芯が透明になるように重たいものがスルリと抜けていった。
ここで、ハッと気づた。
”坤為地は、体の中心軸を透明にして、他からの影響を無力化する力があるのだ”
この卦は診断というよりも治療につかう卦なのだ、と。
「坤」の卦をみると、すべてが陰爻で、真ん中に中空の軸ができている。
頭から入れて、足からスルリとぬける。
すべてを受け入れて、かつ中空なので、悪い影響をうけない。
これが「坤為地」の”受容する徳”なのだと理解した。
患者さんはこの段階で、気の流れがよくなって、すでに症状はとれていた。
「坤」の卦自身が患者さんを良くしてくれたといえる。

 患者さんには、「坤」の卦の形を見せながら自分の中を透明にして上司に接すれば影響を受けなくなることを伝えて、PTMで漢方を選び直した。
すると、今回は「桂枝茯苓丸加薏苡仁」と「附子理中湯」が反応した。
この2つの漢方を処方して、終了とした。

コメント

●「坤為地」は、従順、柔和、受け入れる、包容、母性、寛容、などの意味がある。
この症例が来るまで、この卦の臨床上の意味はわからなかった。問題点を聞いても全く出なかったからだ。ところが、この症例のお陰で”治療に使う”卦だとわかって、ようやく納得できた。

●「坤為地」の裏の卦である「乾為天」も同様治療に使う。この卦については別に書きます。

●「坤為地」や「乾為天」のように、純陰、純陽の状態、病態などは現実の人間にはないのではなかろうか。現実の人間、この世の問題は、すべて白黒が混じったグレイで表されるのではないか。だから、PTM易をしても出なかった。特に「問題点は?」と聞いても出るわけがない。純陰、純陽の問題点は現実には存在しないからだ。
この2つの卦は、むしろ治療に使うべきものだろう。
”治療に使う”とはどうするか?上に書いたようにこの卦が合っている場合、PTMで触っていると、おのずから気が整ってくる。

●「坤」の力(=徳)は”すべての物事を上から受け入れて、透明な中心軸を通して、スルリと下から出して、自分は影響を受けない”ことのように思う。